学校の先生は働かせ放題?給料の仕組みと今後の給料動向について

「教員には残業代が出ない」という話を聞いたことはありませんか?実際、公立学校の教員は、どれだけ長時間働いても時間外手当が支給されない制度のもとで働いています。この記事では、教員の給与制度の特殊性と、2025年に成立した法改正による今後の変化について詳しく解説します。
なぜ教員に残業代が出ないのか?給特法の仕組み
給特法とは
公立学校の教員に残業代が支払われない根拠となっているのが、1971年に制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」、通称「給特法」です。
この法律には、以下の2つの重要な規定があります。
- 教職調整額の支給:給料月額の4%を「教職調整額」として一律支給
- 残業代の不支給:時間外勤務手当および休日勤務手当は支給しない
なぜこのような制度になったのか
教員の仕事は、授業準備や教材研究など、どこまでが業務でどこからが自主的な活動なのか線引きが難しいという特殊性があります。子どもの「人格の完成」を目指す教育には、自主性や創造性が求められるため、勤務時間を厳密に管理するのが困難だと考えられてきました。
4%という数字は、1966年(昭和41年)当時の月平均残業時間約8時間をもとに算定されたものです。当時は、この水準で教員の処遇を適切に評価できると判断されました。
原則として残業を命じてはいけない
給特法では、教員に時間外勤務を命じることができるのは、以下の4つの場合に限定されています(「超勤4項目」)。
- 校外実習その他生徒の実習に関する業務
- 修学旅行その他学校の行事に関する業務
- 職員会議に関する業務
- 非常災害等、緊急の措置を必要とする場合の業務
つまり、通常の授業準備、テスト作成・採点、部活動指導、保護者対応などは、本来は正規の勤務時間内に「勤務時間の割振り」によって処理すべきとされているのです。
実態は「定額働かせ放題」?教員の労働環境
深刻な長時間労働の実態
しかし、現実の教員の勤務状況は、給特法が想定していた姿とはかけ離れています。
文部科学省が2022年度に実施した教員勤務実態調査によると、教員の平日1日あたりの勤務時間は以下の通りです。
- 小学校教員:10時間45分
- 中学校教員:11時間1分
月45時間の残業時間上限(文科省のガイドライン)を超える教員の割合は、小学校で64.5%、中学校では77.1%に達しています。
さらに深刻なのは、「過労死ライン」とされる月80時間超の残業をしている教員が、小学校で14.2%、中学校で36.6%も存在することです。
日本教職員組合の2024年度調査では、持ち帰り仕事も含めた月平均残業時間が88時間36分、中学校では108時間8分という結果も出ています。
4%では全く足りない
1966年当時の月8時間程度の残業を前提とした4%の教職調整額では、現在の労働実態に全く見合っていません。実際の残業時間を残業代に換算すれば、月十数万円になるとも言われています。
この状況は「定額働かせ放題」と批判され、教員の長時間労働を助長する要因となってきました。残業代が出ないため、行政側もコスト意識を持たずに次々と新しい業務を教員に課すことができ、労働時間の歯止めが効かない状況が続いてきたのです。
私立学校の教員は残業代が出る
ここで重要なのは、給特法が適用されるのは公立学校の教員のみという点です。
私立学校の教員は、学校法人に雇用されている通常の労働者であり、労働基準法が全面的に適用されます。そのため、法定労働時間を超えて働けば、実際の残業時間に応じた残業代が支給されます。
同じ教員でも、公立と私立では給与制度が大きく異なるのです。
2025年の法改正:50年ぶりの大きな転換
教職調整額を10%に引き上げ
教員の処遇改善と人材確保の必要性から、2025年6月11日、給特法の改正案が参議院本会議で可決・成立しました。これは給特法制定以来、約50年ぶりの大きな改正です。
改正の主なポイントは以下の通りです。
1. 教職調整額の段階的引き上げ
- 2026年1月から毎年1%ずつ引き上げ
- 2031年1月には10%に到達
- 約50年ぶりの増額
2. 新たな手当の創設
- 「義務教育等教員特別手当」を校務内容に応じて支給
- 学級担任への加算(月額3,000円程度)を想定
3. 働き方改革の推進
- 教育委員会に「業務量管理・健康確保措置実施計画」の策定・公表を義務化
- 時間外在校等時間を2029年度までに月平均30時間程度に減らす目標を設定
給与はどれくらい上がるのか
教職調整額が10%になると、教職10年目で主務教諭かつ学級担任のケースでは、年間約44万円の増収が見込まれています。
2026年1月からスタートし、毎年1%ずつの段階的な引き上げとなるため、完全実施までには時間がかかりますが、確実に処遇改善が進む見通しです。
改正への批判と今後の課題
「根本的な解決ではない」という声
この改正に対しては、教育現場や専門家から批判の声も上がっています。
主な批判点:
- 残業代不支給の仕組み自体は変わらない
- 調整額が増えても、長時間労働を抑制する効果は限定的
- 財源確保のため他の手当が削減される可能性
- 実質的な給与増加は期待より小さい
日本教職員組合や日本弁護士連合会などは、「定額働かせ放題」の構造を温存したままの改正では不十分であり、給特法を廃止して残業代制度を導入すべきだと主張しています。
実際、国立大学附属学校では法人化に伴い残業代制度が適用され、業務削減と長時間労働の改善につながった例もあります。
今後の方向性
改正法の附則には、政府が取り組むべき措置として以下が明記されました。
- 教員1人あたりの担当授業時数の削減
- 教職員定数の標準の改定
- 学校を支援する人材の増員
- 保護者対応への支援強化
- 部活動の地域展開への財政支援
- 公立中学校での35人学級の実現(2026年度から)
処遇改善だけでなく、業務削減と人員増加を組み合わせた「三位一体」の改革が進められる予定です。
まとめ:教員の働き方は変わるのか
公立学校の教員は、給特法という特殊な法律のもと、残業代が支給されない「定額働かせ放題」とも言える状況で働いてきました。1971年の制度設計時には月8時間程度だった残業時間は、現在では月80時間を超える教員も珍しくなく、制度と実態の乖離が深刻化していました。
2025年の法改正により、教職調整額が段階的に10%まで引き上げられることが決まり、教員の処遇は確実に改善される見通しです。しかし、残業代制度そのものは導入されず、長時間労働の根本的な解決には至っていないという批判もあります。
今後、処遇改善と並行して、業務削減や人員増加などの働き方改革が実効性を持つかどうかが、教員の労働環境改善の鍵となるでしょう。教員不足が深刻化する中、「働きやすさ」と「働きがい」の両立が求められています。
参考情報
- 給特法改正の完全実施:2031年1月
- 教職調整額の引き上げ開始:2026年1月から
- 残業時間の削減目標:2029年度までに月平均30時間程度
私立学校への転職や、教員以外のキャリアを検討する際の参考にもなるかもしれません。教員の給与制度について、少しでも理解が深まれば幸いです。








