データが示す真実:なぜ教員の休職・離職は増え続けるのか

「先生って大変そう」――そんな言葉を耳にすることが増えました。しかし、その実態をデータで見たことがある人は、どれほどいるでしょうか。文部科学省が公表しているデータを紐解くと、学校現場が直面している深刻な現実が浮かび上がってきます。
過去最多を更新し続ける精神疾患による休職者
令和4年度、精神疾患により休職した教員は6,539人に達し、過去最多を記録しました。これは全教育職員の0.71%にあたります。
さらに令和5年度には7,119人とさらに増加し、再び過去最多を更新しています。この数字は、単なる統計上の数字ではありません。6,000人を超える教員が、心身の健康を害して教壇を離れざるを得なかった現実を示しています。
特に深刻なのは、若手教員の増加率の高さです。20代の教員における精神疾患による休職者が顕著に増えており、教職に就いてすぐに心身を病んでしまう構造的な問題が浮き彫りになっています。
離職率は低いが、増加傾向にある現実
2018年度の教員全体の離職率は約1.8%、新任教員では1.2%でした。民間企業の新卒離職率(大卒で10.6%)と比較すると一見低く見えますが、これには教員という職業の特殊性が関係しています。
教員は公務員であり、安定性や退職金などの面で辞めにくい構造があります。しかし、離職者数自体は緩やかな増加傾向にあり、特に2015年から2018年にかけて明らかに増えています。
新任教員の離職理由で最も多かったのが自己都合299人、次いで病気111人で、そのうち104人が精神疾患でした。つまり、病気で辞める新任教員のほとんどが、精神的な理由によるものなのです。
世界で突出した長時間労働
教員の休職・離職の背景には、長時間労働という構造的問題があります。
2018年の国際教員指導環境調査(TALIS)によると、日本の小中学校教員の1週間の仕事時間は50時間を超え、参加国平均の38.3時間を大幅に上回り最長でした。
2022年度の教員勤務実態調査では、教諭の1日あたりの平均勤務時間は小学校で10時間45分、中学校で11時間01分でした。前回調査から約30分減少したものの、依然として長時間勤務が続いています。
さらに深刻なのは、小学校で64.5%、中学校で77.1%の教員が、週50時間を超えて勤務していることです。これは月換算すると、国のガイドラインで定められた時間外勤務の上限「月45時間」を超えています。
そして、いわゆる「過労死ライン」にあたる週60時間以上勤務している教員の割合は、小学校で14.2%、中学校では36.6%に達しています。中学校では3人に1人以上が、命に関わるレベルの長時間労働を強いられているのです。
教員不足という負のスパイラル
休職者・離職者の増加は、さらなる教員不足を引き起こし、残された教員の負担を増やすという悪循環を生んでいます。
2021年度の始業日時点で、公立小・中学校で不足している教員の数は合計2,086人でした。これは1,586校で教員が不足している状態です。
教員不足の主な要因は、以下の3つです。
1. 産休・育休取得者の増加 団塊世代の大量退職に伴い若手教員の採用が進んだ結果、20代・30代の子育て世代の教員が増加しました。これ自体は良いことですが、代替教員の確保が追いつかず、教員不足の要因となっています。
2. 特別支援学級の増加 特別支援教育のニーズが高まり、学級数が年々増加しています。これに伴い必要な教員数も増えていますが、正規教員の確保が間に合わず、非正規教員に頼らざるを得ない状況です。
3. 採用倍率の低下 令和5年度(4年度実施)の教員採用試験の採用倍率は3.4倍と過去最低を記録しました。ピーク時の13.3倍から大幅に低下しています。
特に小学校は深刻で、令和5年度の小学校の採用倍率は2.3倍まで低下し、68教育委員会のうち20以上で倍率が1倍台となっています。大分県では受験者数が採用見込み数を下回る「定員割れ」も発生しました。
なぜこれほど大変なのか:業務の多様化と質的変化
長時間労働の背景には、教員の業務が量的にも質的にも増大していることがあります。
2008年に学習指導要領が改訂され授業時数が約30年ぶりに増加し、2017年の改訂では外国語教育の導入・教科化など新たな内容が盛り込まれました。一方で週5日制は維持されたため、平日の授業時数が増え、1日あたりの授業時間が増加しました。
加えて、授業以外の業務も多岐にわたります。生徒指導、保護者対応、ICT活用、オンライン授業対応、各種報告書の作成など、教員が担うべき業務は年々複雑化・増大化しています。
部活動の負担も大きな要因です。中学校教員の土日の部活動に関わる時間は平均1時間29分で、前回調査の2時間10分から40分減少したものの、大きな削減には至っていません。
データが示す未来への警鐘
これらのデータが示しているのは、日本の教育現場が限界に達しつつあるという現実です。
- 過去最多を更新し続ける精神疾患による休職者
- 世界で突出した長時間労働
- 3人に1人が過労死ラインを超える中学校教員
- 過去最低を更新する採用倍率
- 深刻化する教員不足
これらは互いに関連し合い、負のスパイラルを形成しています。長時間労働が休職・離職を生み、それが教員不足を引き起こし、残された教員の負担がさらに増える――この悪循環を断ち切らなければ、日本の教育の質そのものが危機に瀕します。
改革は進んでいるが、まだ足りない
国や自治体も手をこまねいているわけではありません。働き方改革の推進、学校閉庁日の設定、部活動の地域移行、校務支援システムの導入など、様々な取り組みが進められています。
実際、教員の在校時間は前回調査から約30分減少するなど、一定の効果は見られています。しかし、それでもなお小学校で6割以上、中学校で7割以上の教員が、月45時間の上限を超えて働いている現実があります。
データは嘘をつきません。文部科学省の調査が示す数字は、教育現場の悲鳴そのものです。この問題は教員だけの問題ではなく、子どもたちの学びの質、そして日本の未来に直結する問題なのです。
参考資料
- 文部科学省「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査」
- 文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)」
- 文部科学省「学校教員統計調査」
- 文部科学省「『教師不足』に関する実態調査」
- 文部科学省「令和5年度公立学校教員採用選考試験の実施状況」








