はじめに

「教員はブラック」「先生は残業が多すぎる」――SNSやニュースでこうした声を目にすることが増えました。一方で、「夏休みがあるからいいじゃないか」「定時に帰れる日もあるでしょ」という反論も聞かれます。

実際のところ、教員の働き方は本当につらいのでしょうか?それとも誇張されているのでしょうか?

この記事では、文部科学省や厚生労働省が公表している客観的なデータをもとに、教員の労働実態を分析します。感情論ではなく、数字で語ることで、教員の働き方改革が本当に進んでいるのかを検証していきます。

文科省「教員勤務実態調査」が示す衝撃の数字

文部科学省は定期的に「教員勤務実態調査」を実施しており、最新の令和4年度調査(2022年度)では、以下のような結果が明らかになっています。

教員の1日あたりの勤務時間

小学校教員の平均勤務時間は、平日で10時間45分でした。中学校教員では平日で11時間1分となっています。法定の勤務時間が7時間45分であることを考えると、小学校で約3時間、中学校で約3時間15分の超過勤務が常態化していることになります。

月あたりの残業時間に換算すると

平日20日として計算すると、小学校教員で月約60時間、中学校教員で月約65時間の時間外勤務となります。これは、厚生労働省が定める「過労死ライン」である月80時間に迫る数字です。

さらに、部活動指導が活発な中学校では、土日の勤務も加わります。土日を含めた週あたりの勤務時間を見ると、中学校教員の約15%が週60時間以上(月換算で約240時間以上)勤務しているという調査結果もあります。

前回調査との比較

平成28年度(2016年度)の調査と比較すると、わずかに改善傾向は見られます。小学校では平日の勤務時間が約15分減少、中学校では約20分減少しました。

しかし、この「改善」は主に新型コロナウイルスの影響で学校行事や部活動が制限された時期のデータであることに注意が必要です。コロナ禍が収束した現在、再び勤務時間が増加している可能性も指摘されています。

何にそんなに時間がかかっているのか?

教員の業務は授業だけではありません。勤務時間の内訳を見ると、教員がどれだけ多様な業務を抱えているかがわかります。

授業準備・教材研究

授業1コマを行うために、教材研究、プリント作成、教材準備などに平均1〜2時間を要します。小学校教員は全教科を担当するため、準備の負担がさらに大きくなります。

成績処理・事務作業

テストの採点、通知表の作成、出席管理、各種報告書の作成など、事務作業に多くの時間が取られます。特に学期末は深夜まで残業することも珍しくありません。

生徒指導・保護者対応

いじめ、不登校、問題行動への対応は、予測できないタイミングで発生します。保護者からの電話やメールへの対応も、勤務時間外に及ぶことがあります。

部活動指導

中学校・高校教員にとって、部活動指導は大きな負担です。平日の放課後に加え、土日の練習や大会引率もあり、実質的に休日が取れない教員も少なくありません。しかも、部活動指導に対する手当は、平日で1日1,200円程度、休日でも3,600円程度と、時給換算すると最低賃金を大きく下回る水準です。

会議・研修

職員会議、学年会議、教科会議、校内研修など、会議や研修も勤務時間を圧迫します。これらは放課後に設定されることが多く、その後に本来の業務(授業準備や採点)を行うため、必然的に残業が発生します。

その他の業務

校内の環境整備、安全点検、給食指導、清掃指導、登下校の見守り、地域行事への参加など、教育活動に付随する業務も膨大です。

他業種と比較するとどうなのか?

教員の労働時間を他の業種と比較してみましょう。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、全産業の平均残業時間は月約10〜15時間程度です。つまり、教員の残業時間(月60〜65時間)は、全産業平均の4〜6倍に相当します。

また、OECD(経済協力開発機構)の国際教員指導環境調査(TALIS)では、日本の中学校教員の1週間あたりの勤務時間は参加国中で最長であることが明らかになっています。調査に参加した48か国・地域の平均が週38.3時間であるのに対し、日本は週56.0時間と、約18時間も長い結果でした。

さらに注目すべきは、この勤務時間のうち、授業に充てている時間の割合です。日本の教員は授業時間が週18.0時間と、OECD平均の20.3時間より短いにもかかわらず、総勤務時間は最長です。つまり、授業以外の業務に膨大な時間を取られているということです。

教員の健康状態とメンタルヘルス

長時間労働は、教員の健康に深刻な影響を及ぼしています。

文部科学省の調査によれば、精神疾患による教員の病気休職者数は、令和3年度で5,897人に達しました。これは教員全体の約0.64%に相当し、10年前と比較して約1.5倍に増加しています。

また、教員の離職率も上昇傾向にあります。特に若手教員の早期離職が問題となっており、採用後3年以内に離職する教員の割合は約10%とも言われています。「理想と現実のギャップ」「長時間労働への疲弊」が主な理由です。

教員採用試験の倍率低下も深刻です。かつては「狭き門」だった教員採用試験ですが、近年は倍率が2〜3倍程度まで低下している自治体も珍しくありません。小学校では倍率が2倍を切る自治体も出ており、「教員のなり手不足」が現実のものとなっています。

働き方改革は本当に進んでいるのか?

政府や教育委員会は「教員の働き方改革」を掲げ、さまざまな施策を打ち出しています。実際に効果は出ているのでしょうか。

1. 変形労働時間制の導入

一部の自治体では、1年単位の変形労働時間制が導入されました。これは、夏休み期間中の勤務時間を短縮する代わりに、学期中の勤務時間を延長できる制度です。

しかし、実態としては「学期中の長時間労働を追認するだけ」との批判も強く、教員からは「夏休みも研修や部活動で休めない」という声が上がっています。

2. 部活動の地域移行

中学校の部活動を学校から地域に移行する取り組みが進められています。休日の部活動を地域のスポーツクラブや文化団体に委ねることで、教員の負担を軽減する狙いです。

一部地域では成果が出始めていますが、指導者の確保、費用負担、地域格差など、課題も山積しています。都市部では受け皿があっても、地方では難しいケースが多く、全国的な展開には時間がかかりそうです。

3. スクールサポートスタッフの配置

印刷業務や資料整理など、教員の事務作業をサポートする「スクールサポートスタッフ」の配置が進められています。また、部活動指導員、ICT支援員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど、専門スタッフの配置も拡充されつつあります。

これらは確実に教員の負担軽減に寄与していますが、配置されている学校はまだ限定的で、予算の制約から十分な人数が確保できていないのが現状です。

4. 学校行事の精選・ICT化

コロナ禍をきっかけに、学校行事の見直しやICTツールの導入が進みました。オンライン会議、デジタル採点、クラウドでの資料共有などにより、業務効率化が図られています。

しかし、ICT導入によって逆に業務が増えたという声もあります。デジタル化と並行して紙の資料も求められるケースや、新しいシステムの習得に時間がかかるといった課題も指摘されています。

5. 給特法の見直し議論

教員の残業代が支払われない根拠となっている「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」の見直しを求める声が高まっています。

現行法では、教員に残業代を支払わない代わりに、給料月額の4%を「教職調整額」として支給する仕組みです。しかし、実際の残業時間を考えると、4%では全く見合っていません。

政府の教育再生実行会議などでも議論されていますが、財源の問題もあり、抜本的な改革には至っていません。

データから見える3つの構造的問題

国のデータを総合的に分析すると、教員の長時間労働には3つの構造的問題があることがわかります。

1. 「教員は聖職者」という意識の残存

日本には「教員は子どものために無償で働くべき」という考え方が根強く残っています。この意識が、長時間労働を当然視する風潮を生んでいます。

教員自身も「子どものため」と思って過剰に働いてしまう傾向があり、結果として長時間労働が常態化しています。

2. 教員の業務範囲の曖昧さ

日本の学校は「何でも屋」化しており、本来は教員がやるべきではない業務まで抱え込んでいます。欧米諸国では、事務作業は事務職員、カウンセリングは専門家、部活動は地域のコーチが担当するのが一般的です。

しかし日本では、これらすべてを教員が担当することが期待されており、業務範囲が無限に広がってしまっています。

3. 教員数の不足

OECD諸国と比較すると、日本の教員一人あたりの児童生徒数は多い傾向にあります。1クラスあたりの人数も多く、教員の負担が大きくなっています。

根本的な解決には、教員の増員が不可欠ですが、財政的な制約から十分な増員が進んでいません。

現場教員の生の声

データだけでは見えない、現場の実態も重要です。

「授業準備は家でやるのが当たり前。学校では会議や雑務に追われて、自分の教材研究をする時間がない」(小学校教員・30代)

「部活動の顧問を断ることができず、土日も練習や大会。家族との時間がまったく取れない」(中学校教員・40代)

「保護者対応に夜10時まで電話をすることも。でも、それに対する手当はゼロ」(高校教員・30代)

「やりがいはあるけれど、体がもたない。このまま定年まで続けられる自信がない」(中学校教員・50代)

一方で、改革が進んでいる学校からはこんな声も。

「管理職が業務の優先順位をはっきりさせてくれるようになり、『やらなくていい仕事』を明確にしてくれた。以前より余裕が出てきた」(小学校教員・20代)

「スクールサポートスタッフが配置されて、印刷や資料作成の時間が大幅に減った。その分、子どもと向き合う時間が増えた」(中学校教員・30代)

本当に必要な改革とは

データと現場の声を踏まえると、教員の働き方改革に本当に必要なのは、以下の3つだと考えられます。

1. 教員の業務範囲の明確化と削減

教員が本来担うべき「教育活動」と、そうでない業務を明確に区別することが必要です。事務作業、施設管理、地域対応などは、専門スタッフや事務職員に任せる体制を整備すべきでしょう。

部活動についても、教員の善意に依存するのではなく、地域移行や外部指導者の活用を本格的に進める必要があります。

2. 適切な人員配置と予算確保

教員一人あたりの負担を減らすには、教員の増員が不可欠です。また、スクールサポートスタッフ、部活動指導員、ICT支援員などの専門スタッフを十分に配置するための予算確保が必要です。

少人数学級の実現も、教員の負担軽減と教育の質向上の両面で重要です。

3. 給特法の抜本的見直し

残業代が支払われない現行の給特法は、長時間労働を助長する要因となっています。教員も労働者として、適切な労働時間管理と対価の支払いが保障されるべきです。

残業時間の上限設定、タイムカードによる勤務管理の徹底、超過勤務手当の支給など、抜本的な制度改革が求められます。

まとめ:データが示す厳しい現実と希望

国のデータが示すのは、教員の働き方が依然として厳しい状況にあるという事実です。月60時間を超える残業、過労死ラインに迫る勤務時間、増加する精神疾患による休職――これらは決して誇張ではありません。

一方で、働き方改革の取り組みも少しずつ進んでおり、改善の兆しも見え始めています。スクールサポートスタッフの配置、部活動の地域移行、ICTの活用など、効果が出ている施策もあります。

重要なのは、「教員は大変だ」という認識を社会全体で共有し、「教員の働き方を改善することは、子どもたちの教育を良くすることにつながる」という理解を広げることです。

教員が疲弊していては、質の高い教育は提供できません。教員が心身ともに健康で、やりがいを持って働ける環境を整えることが、結果的に子どもたちの学びを豊かにすることになります。

働き方改革は、まだ道半ばです。しかし、データに基づいた冷静な分析と、現場の声に耳を傾ける姿勢があれば、必ず前進できるはずです。


参考資料

  • 文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)」
  • 文部科学省「学校教員統計調査」
  • 厚生労働省「毎月勤労統計調査」
  • OECD「国際教員指導環境調査(TALIS)」

注意事項 この記事は公開されている統計データをもとに執筆していますが、最新の数値や制度の詳細については、文部科学省や各教育委員会の公式情報をご確認ください。


ABOUT ME
ひと息さん
ひと息さん
7年間教員として子どもたちや保護者と関わる中で、「人生の計画を立てることの大切さ」を感じてきました。先生の仕事、プライベートの充実、節約貯金投資など、頑張りすぎず、でも前向きに。そんな働き方や暮らし方を一緒に考えられる場を目指します。FP3級/メンタルヘルス・マネジメント2種3種/基本情報技術者試験