はじめに

学校における不審者対応は、子どもたちの命を守るための最重要課題です。2001年の大阪教育大学附属池田小学校の事件以降、全国の学校で安全対策が強化されてきましたが、近年も不審者侵入事案は後を絶ちません。

本記事では、全教職員が知っておくべき不審者対応の4つの大原則と、日常からできる予防策を実践的に解説します。「もしも」の時に適切に行動できるよう、平常時の備えを見直しましょう。


学校の不審者対応で大事なこと4つ

1. 子どもの安全確保を最優先する

基本原則 不審者対応で最も優先すべきは、何よりも子どもたちの安全確保です。教職員が不審者と対峙する前に、まず子どもたちを安全な場所へ避難させることが第一です。

具体的な行動

  • 不審者を発見したら、即座に子どもたちを教室内に入れ、施錠する
  • 不審者から最も遠い場所(教室の奥や窓側)に子どもたちを集める
  • 「静かに」「低い姿勢で」待機するよう指示
  • カーテンを閉め、外から見えないようにする
  • 子どもたちに不安を与えない声かけを心がける

避難の原則

  • 不審者の位置を把握し、反対方向へ避難
  • 避難経路は複数確保しておく
  • 二次避難場所(体育館、別棟など)を事前に決めておく
  • 「おさない、かけない、しゃべらない、もどらない」の徹底

2. 早期発見・早期通報を徹底する

「空振りを恐れない」通報の原則

不審者かどうか判断に迷う場合でも、少しでも違和感を感じたら通報することが重要です。結果的に問題がなかったとしても、それは良いことであり、通報をためらってはいけません。

不審者の見分け方

以下のような特徴がある来校者には特に注意が必要です:

  • 校内で挙動不審な動きをしている
  • 用件や訪問先を明確に答えられない
  • 児童生徒の学年・組・氏名を答えられない
  • 名札をつけていない、つけることを拒否する
  • 顔を隠すような服装(帽子、マスク、サングラスなど)
  • 時間帯や場所が不自然(授業中に校庭をうろついているなど)

通報の手順

  1. 職員室への通報
    • 教室に設置されているインターホンや緊急通報装置を使用
    • 「〇年〇組に不審者」と簡潔に伝える
    • 複数の教職員が通報しても構わない(重複を恐れない)
  2. 110番通報
    • 管理職または指定された教職員が警察に通報
    • 職員室に警察直通ホットラインがある場合は活用
    • 不審者の特徴、現在位置、武器の有無などを伝える
  3. 全校への伝達
    • 校内放送で全教職員に状況を知らせる
    • 放送コードがある場合は使用(例:「校長先生、至急職員室へ」など)

3. 複数人で組織的に対応する

絶対に一人で対応しない

不審者対応で最も危険なのは、教職員が一人で対峙することです。どんなに緊急の状況でも、必ず複数人で対応する原則を守りましょう。

役割分担の明確化

学校全体で以下の役割を事前に決めておきます:

役割担当者主な任務
対応班男性教職員中心に3名以上不審者への対応、牽制
避難誘導班各学級担任児童生徒の避難誘導
通報班教頭・事務職員警察への通報、状況報告
応援要請班教務主任など近隣学校・教育委員会への連絡
救護班養護教諭・保健主事負傷者の応急手当
情報管理班副校長・教頭全体の指揮、情報統括

対応の基本姿勢

  • さすまたは必ず複数本(3本以上)で使用
  • 不審者を壁やコーナーに追い込むように配置
  • 一定の距離(2〜3メートル)を保つ
  • 相手を刺激しない言葉遣いを心がける
  • 無理に取り押さえようとしない(警察到着まで時間を稼ぐ)

4. 日常的な予防と訓練を継続する

予防こそが最大の防御

不審者侵入を防ぐためには、日常的な安全管理が何よりも重要です。「侵入させない」「早期発見する」体制を整えましょう。

平常時の危機管理体制

毎日実施すべき安全管理:

  1. 登校時間帯(7:30〜8:30)
    • 防犯カメラの確認
    • 遅刻者の入校管理
  2. 授業時間帯(8:30〜15:00)
    • 使用しない門の施錠
    • 来校者の受付・名札着用の徹底
    • 校内巡視(休み時間、昼休み)
    • 職員証の常時着用
  3. 放課後時間帯(15:00以降)
    • 校門の施錠時刻の厳守
    • 残留児童生徒の把握
    • 夜間機械警備への切り替え確認

実践的な訓練の実施

年間を通じて以下の訓練を計画的に実施します:

  • 不審者侵入対応訓練(年1〜2回)
    • 警察署員を招いた実践的訓練
    • 想定場所を毎回変更
    • 教職員の役割確認と動線チェック
    • 児童生徒への避難訓練
  • さすまた訓練(年2回以上)
    • 正しい持ち方・使い方の習得
    • 複数人での連携方法
    • 状況に応じた使い分け
  • マニュアル研修(年度初め必須)
    • 全教職員での確認
    • 新任教職員への重点指導
    • 校舎図面を使った避難経路確認

施設・設備面での予防策

門・入口の管理

基本的な対策

  • 登下校時以外は校門を施錠
  • 使用する門を限定(できれば1箇所)
  • インターホン・防犯カメラの設置
  • 電気錠・オートロックシステムの導入
  • 来校者用駐車場の位置の工夫

来校者管理システム

  • 受付での氏名・所属・用件の記録
  • 来校者用名札の着用義務化
  • 事務室・職員室から門が見える配置
  • カメラ付きインターホンによる確認

校舎内の安全対策

死角をなくす工夫

  • 鏡やセンサーライトの設置
  • 窓ガラスへの目隠しフィルム(外から見えない)
  • 見通しの良い植栽配置
  • 足場になる物(室外機、物置)の撤去または固定

通報・連絡システム

  • 各教室への緊急通報装置の設置
  • 職員室からの110番ホットライン
  • 校内放送設備の整備
  • トランシーバーや携帯電話の活用

防犯設備の整備

国の支援制度(令和5〜7年度)を活用して以下を整備:

  • 防犯カメラ(校門、昇降口、廊下、死角)
  • オートロックシステム
  • 非常通報装置
  • さすまた(各フロアに複数配備)
  • LED照明(夜間の防犯)

さすまたの正しい使い方

さすまたの目的

重要な認識 さすまたは不審者を「捕まえる」ための道具ではありません。以下の目的で使用します:

  1. 不審者を威嚇する
  2. 子どもたちから遠ざける
  3. 警察が到着するまでの時間を稼ぐ
  4. 自分自身の身を守る

基本的な使い方

持ち方

  • 両手でしっかりと握る
  • 利き手を前、反対の手を後ろに
  • 脇を締めて体の中心線で構える
  • 重心を低くして安定した姿勢

3つの基本技

  1. 胴押さえ
    • U字部分を不審者の胴体に押し当てる
    • 壁に押し付けるように使用
    • 最も基本的な技
  2. 袈裟押さえ
    • 肩から胴にかけて斜めに押さえる
    • 上半身の動きを制限
  3. 足押さえ
    • 足元をU字部分で押さえる
    • 移動を防ぐ

複数人での使い方

  • 3人以上で囲むように配置
  • 正面・左右から同時に押さえる
  • 一人が正面から注意を引き、他の人が側面から押さえる
  • 声をかけ合って連携

注意点

  • さすまたを奪われないよう常に警戒
  • 相手を刺激しない声かけ
  • 無理に取り押さえようとしない
  • 1対1での使用は避ける
  • 保管場所は全教職員が把握

日常の安全点検チェックリスト

毎日の確認事項

朝の点検(始業前) □ 正門・通用門の鍵の状態 □ 防犯カメラの作動確認 □ 校舎内外の異常の有無 □ さすまたの配置確認 □ 通報装置の作動確認 □ 来校者記録簿の準備

授業中の巡視(休み時間・昼休み) □ 校舎内の見回り □ 死角になりやすい場所の確認 □ 不審者・不審車両の有無 □ 児童生徒の様子 □ 施錠箇所の確認

放課後の確認 □ 全児童生徒の下校確認 □ 教室・特別教室の施錠 □ 校門の施錠時刻 □ 夜間警備への切り替え □ 翌日の体制確認

月1回の安全点検

施設設備 □ 門扉・フェンスの破損 □ 防犯カメラの映像確認 □ 通報装置の動作確認 □ 照明設備の点検 □ さすまたの破損確認 □ 非常階段の安全確認

運用体制 □ 来校者記録の確認 □ 不審者情報の共有 □ マニュアルの見直し □ 訓練計画の進捗確認


教職員が身につけるべき意識

「気づく力」を高める

日常の観察力

  • いつもと違う人や車に気づく
  • 不自然な行動を見逃さない
  • 子どもたちの様子の変化に敏感になる
  • 地域の情報にアンテナを張る

「声かけ」の重要性 校内で見かけた来校者には:

  • 「こんにちは。どちらへご用ですか?」
  • 「名札をお持ちでしょうか?」
  • 「受付にご案内しますね」

この一声が不審者の侵入を防ぎます。

「報告・連絡・相談」の徹底

些細なことでも共有する

  • 不審な人物を見かけた
  • いつもと違う車が停まっていた
  • 地域で不審者情報があった
  • 保護者から不安の声があった

これらの情報を職員間で共有することで、学校全体の警戒レベルが上がります。

危機管理意識の維持

油断が最大の敵

  • 「うちの学校は大丈夫」という思い込みを捨てる
  • 平常時こそ意識を高く持つ
  • 訓練をルーティン化する
  • マニュアルを「生きた文書」として更新し続ける

地域・保護者との連携

学校安全ボランティアの活用

保護者・地域住民による見守り

  • 登下校時の見守り活動
  • 校内外の巡回
  • 腕章・帽子・ベストの着用で抑止力に
  • PTAや自治会との連携

情報共有の仕組み

双方向のコミュニケーション

  • 不審者情報の迅速な共有(メール配信システム)
  • 防犯対策の説明(保護者会、学校だより)
  • 地域の見守り活動への感謝
  • 「こども110番の家」との連携

警察・関係機関との連携

日頃からの関係構築

  • 所轄警察署との定期的な連絡
  • 防犯訓練への協力依頼
  • 不審者情報の共有
  • スクールサポーターの活用
  • 緊急時の連絡体制の確認

万が一、被害が発生した場合の対応

初期対応

  1. 負傷者の救護
    • 応急手当の実施
    • 119番通報
    • AEDの準備
  2. 二次被害の防止
    • 他の児童生徒の安全確保
    • 現場の保存
  3. 関係機関への連絡
    • 警察(110番)
    • 消防(119番)
    • 教育委員会
    • 保護者

心のケア

子どもたちへの対応

  • 事件の目撃者・被害者へのカウンセリング
  • スクールカウンセラーの配置
  • 保護者との連携
  • 日常を取り戻すための支援

教職員のメンタルヘルス

  • 対応した教職員の心理的ケア
  • 職員間での情報共有と支え合い
  • 専門家によるサポート

まとめ:安心安全な学校を作るために

学校の不審者対応で最も大切なのは、**「予防」と「備え」**です。不審者が侵入してから対応するのではなく、侵入させない仕組みと、万が一の際に適切に行動できる準備を整えておくことが重要です。

今日からできること

  1. 自校の危機管理マニュアルを確認する
    • 最新版になっているか
    • 実効性があるか
    • 全教職員が理解しているか
  2. 校内の安全点検を実施する
    • 死角はないか
    • 施錠は適切か
    • 防犯設備は機能しているか
  3. 教職員間で情報共有する
    • 役割分担の確認
    • 不審者情報の共有
    • さすまたの配置確認
  4. 訓練計画を立てる
    • いつ、どのような訓練をするか
    • 警察との連携はできているか
    • PDCAサイクルで改善

「子どもたちの命を守る」という使命

教職員一人ひとりが当事者意識を持ち、日常的に安全管理に取り組むことで、学校は安心安全な場所になります。「自分の学校は大丈夫」という油断を捨て、常に「もしも」を想定した備えを続けていきましょう。

子どもたちの笑顔を守るために、私たち教職員ができることを、今日から実践していきましょう。

ABOUT ME
ひと息さん
ひと息さん
7年間教員として子どもたちや保護者と関わる中で、「人生の計画を立てることの大切さ」を感じてきました。先生の仕事、プライベートの充実、節約貯金投資など、頑張りすぎず、でも前向きに。そんな働き方や暮らし方を一緒に考えられる場を目指します。FP3級/メンタルヘルス・マネジメント2種3種/基本情報技術者試験